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 アルブラは、他国との交易のために作られた宿場町だった。町の中央には、交易品を大量に積んだ重い荷竜でも発着できるように石畳で地面を補強した広場――竜港がある。アルブラの竜港は、規模こそ大きくないが石畳は頑強にできており、大部隊を載せた軍用荷竜の着陸にも耐えれそうだった。竜港のすぐそばには、竜たちの発着の統制するための監視塔がそびえ、監視塔のとなりには(交易商人たちが税金の監視塔と呼ぶ)国の税関所が建っていた。位置的にも経済的にも町の中心である竜港を起点にして、アルブラの街並みを切り分けるように目抜き通りが十字に走っている。通り沿いには、交易品を貯蔵するための倉庫や、他国から訪れた行商人たちが使う高級宿、荷物運びに従事する出稼ぎ人足たちが寝泊りをする安宿が並んでいた。  この直線的な目抜き通りこそが、アジ・ダハーカ軍がアルブラを狙った理由だった。真っ直ぐな目抜き通りというものは、交易品の運搬効率は良い反面、もし敵に攻め込まれれば即座に中央にまで入られてしまうという欠点を持っている。そんな通りが四本もあるアルブラは、守りの面ではかなり脆弱だった(きっとこの町を作った町長は、効率良く金を稼ぐことしか頭になかったのだろう)。  アルブラに駐留しているファフニールの警備兵たちも、町の脆弱性は自覚しているらしく、目抜き通りの入り口に敵を足止めするための木箱やタルを置き、簡易的な防壁を作っていた。しかし所詮、そんなものは気休めにしかならない。 「こいつぁ簡単に落とせそうですね」ラブリスがひげ面に笑みを浮かべた。 「それでも気は抜くなよ」ルシアの表情は変わらない。 「もちろんわかってやすぜ」  ルシアとラブリス、そしてその配下のアエーシュマ歩兵隊員たちは、アルブラ郊外の丘の陰に隠れながら、アルブラの町を偵察していた。  防壁は問題にならないと判断したルシアは、壁の後ろに待機しているアルブラの警備兵たちに目を移した。一目で、その兵士たちのほとんどが、農民や人足などに草刈り鎌や薪割り斧を持たせただけの民兵だとわかった。正規部隊のほとんどは、ファフニールの王都シェルヴィアの守りを固めるために、荷竜に乗って都へ向かったのだろう。いまのアルブラには、正規兵は数名ほどしか残っていないかった。 「民兵の数はざっと二百。その民兵らを指揮するために配備されている正規兵の数は十人ほどだな」ルシアが素早く視線を動かす。「対竜バリスタが設置されてる場所は二カ所か」 「ええ。竜港に面した監視塔の屋上と、町で一番でかい宿場の屋根の上の二か所です」とラブリス。「それぞれの場所に三基ずつ、合計六基。対竜バリスタの周りには、バリスタを操作するための工兵が数人待機してますね」 「町に民間人はいそうか?」 「兵士ども以外に人の気配はありませんね。王都に向かった正規兵たちといっしょに民間人も避難したんでしょう」  ルシアは、ふむ、と声を漏らした。  ルシアは戦に関係のない人々、とりわけ子供を巻き込むことだけは人並み以上に避けていた。女の甘い考えだと思われるのが嫌だったので、その心中を直接言葉に出したことはなかったが。 「ならば遠慮はいらないな。駆逐するぞ」ルシアがジョロウグモのバイザーを下ろし、顔を隠す。 「へい。いつものとおりですね」ラブリスも獅子のバイザーを下ろした。  アエーシュマ歩兵隊は丘を乗り越え、進軍を開始した。
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