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秤るモノたち
二十一時。
保湿パックを貼り付け、ベッドに腰を預けながら小説に目を走らせる。そんなプライベートタイムの最中、スマホから短く通知音が鳴った。
読み終える間近の本をキリのいいところで閉じ、背後のスマホをノールックで探り当て画面を灯す。
「えッ!?」
画面上部に表示された平戸という名前に眼がこぼれかけ、落雷にも似た衝撃が全身を駆け巡った。
憧れの先輩から個人チャットでメッセージが届くという大事件に思わず保湿パックを素早く剥ぎ取り、明日が命日かと天を仰ぐ。
深呼吸しチャット画面を開くと、そこにはこうあった。
[ちょっと話があって、明日の放課後屋上に来てほしいんだけど、いいかな?]
明日は十四日。そう、バレンタインデー。
(これッ……これってもしかして……もしかしてェェェ!!?)
運命とも思える誘いに、妄想が風船のように膨らむ。
興奮で顔は熱くなり、今にも飛び出そうな心臓をベッドにうつ伏せになって強引に鎮める。
しばらく唸ったのち、落ち着きを取り戻した指で何度も何度も文を打ち直しようやく返事を送る。
しかし再び鼓動が早くなり、勢いで美顔ローラーを頬に擦り付けたのだった。
──
「あッ茅島ー、もうアレ……」
「ごめーん守田! 後でいい?」
「あ? あァ」
同級生、守田和哉の声を軽く受け流したミサトは部室にカバンを投げ置き、呼ばれた場所へと走り出す。
昂る足で息を切らしながら階段を上り、踊り場にポツンとある鉄扉のドアノブを握る。
重い扉を両手で押し込み、肌を刺すような空気に耐えながら屋上に出ると、柵にもたれる見慣れた背中が薄い粉雪の中、目に映る。
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