知らない香り

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 朝、目が覚めると僕のではない香りに部屋が包まれている。  昨日、同じシャンプーを使っているはずなのに枕に残っている爽やかな香り。  僕は朝食を食べないのに、キッチンから食欲を誘ってくる味噌汁の香り。  起き上がって洗面台へ行けば、化粧品の香りがする。僕が化粧なんてするはずないのに。  こんなにも香りが漂って、たしかに君がいたはずなのに、どこを探しても姿が見えない。  仕方なしにキッチンへ行くと、少しだけ湯気が上っている味噌汁の鍋、そして横に置いてある小さな鍵。  僕は味噌汁をお椀に注ぎ、久しぶりの朝食を食べた。  中身は豆腐とわかめ。温かい。火を入れなくとも、まだ十分温もりがある。  なんだか現実を打ち付けられているようで、僕は味噌汁一杯を中々飲むことができなかった。  どうやらまだ、当分君のことを忘れることはできないみたいだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!