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佳苗のピンチ
とかく、学校ってところは不可解で、俺の気が付かないところで色んな思惑が交差するわけで……。
――――その日の放課後。伊波里奈さんとその友だちが、教室で佳苗の話題をしていたんだ。伊波さんの状況はこうだったんだ。
【伊波里奈の目線】
外が夕焼けになって、西日が差し込む教室には私たちしかいない。
私は、前の席で同じ『いなみ』と読む名字の稲見佳苗が嘉内くんと付き合っていたなんて納得出来なかった。
——あんな地味でおどおどしたぼっち女子が?
「稲見(佳苗)さんが嘉内くんと付き合うなんて信じられない!! 」
「ランチルームで二人でいたんだって」
「ちょっと意外過ぎるよね」
「大人しそうにしてて、実は男子にこそこそ色目使ってるとか? 」
友だちが私をフォローするように稲見さんの悪口を展開している。
「そうとしか思えない」
「イジメ受けてるふりして」
「嘉内くんの気を引いたんじゃない? 」
そうだとしたら、稲見さんはかなり狡猾な性格だったのかも知れない。嘉内くんが私に気があるんじゃないかって噂もあったし、私が嘉内くんならオッケーって雰囲気は出していた。学内同学年で目立つお互いなんだから、周りが引き合わせるって感じになると思ってた。
稲見さん、いつ嘉内くんと接触したんだろう。稲見さんと嘉内くん、接点なんか無かったはず。どちらかと言えば私と対照的な性格で、共通するのは名字の読みが同じでもちろん出席番号は並んで……。「何かの間違いじゃないか」と思った時、ふと気がついた。
「もしかして……嘉内くんのチャットIDって分かる? 」
私の閃きに反応した友だちが、スマホを開いた。
「グループチャットやタイムラインから分かるかも! 」
隣のクラスの集まりで作ったグループチャットに入り込んだ子が、嘉内くんのIDを見つけた。チャットにコメントはしていないけどメンバーには入っていた。
「里奈。はい、これ嘉内くんの」
私の予感は的中した。
「見覚えのあるID! 」
「え、理奈、何か分かったの? 」
私宛のラブレターに書かれていたID。稲見さんの靴箱に差し込まれていたのは、嘉内くんが入れ間違えたんだ。そんなエラーさえ無ければ、嘉内くんと……いや、私はアプローチ慣れして『気持ち悪い匿名ID』って思って拒否したんだ。それで、稲見さんに嘉内くんを譲ったみたいになっちゃったんだ。
「うん。稲見さん、ひどい! 」
「あれは嘉内くんだったよ」と稲見さんが私に教えてくれてさえいれば、結果は違っていた。
「え、理奈、泣かないで」
「何かあったか教えて! 」
こういう時、感情を昂らせて私に軸を戻す。涙は自然に出てくるし、本当に悲しくなるし悔しい。私、嘉内くんと付き合いたかった。私を慰める友だちに、ことの経緯を話した。そして、みんな私に同情してくれた。
——そんなわけで伊波さんの中では、
伊波さん宛のラブレターに書かれたIDを俺のだと知った佳苗が、それを知るべき伊波さんに伝えなかった。その上、俺に向けては『里奈さんが俺の告白を断った』と嘘をついた話に発展した。俺に気がある佳苗は、これをチャンスに俺に接近して付き合い始めたなんてストーリーが出来上がるなんて……凄いなぁ。
佳苗が俺に接近……無理があるだろ。それはさておき、この話は直ぐに俺が知ることになった。
翌朝、学校で俺は朝練を終えて教室に向っていた。
「張り切り過ぎた……だりぃ……」
佳苗の応援欲しさに、朝練を全力で取り組んでしまった。好きな子にカッコいいところ見せたいとか、俺は単純だった。
早朝のテンションのHPが切れかかって廊下をくたくたに歩いていた。そこにクラスメートの野郎どもが俺を迎えに走ってきた。
「あ、いたいた。大翔~!! 」
「ちょっと早く来いよ!! 」
困ったことが起きてるぞと心配する半分、残りは好奇心に駆り立てられてるコイツラに疲れが倍増した。
「なんだよ」
「お前の彼女大変なことになってるぞ」
「はぁっ!! 」
佳苗の事ってなると一大事だ。コイツラが俺を呼びに来たってことはただ事じゃないよな。俺は佳苗のクラスへと急いだ。
佳苗のクラスは、ホームルーム前だと言うのに緊張と騒めきで怪しいムードになっていた。教室の後ろのスペースに佳苗を取り囲むように人だかりが出来ていた。
「稲見さん、理奈に謝んなよ! 」
佳苗を責め立てるのは、伊波さんの友だち。伊波さん絡みだと分かると、何だか俺に絡む事なんじゃないか?
ひっく……と、伊波さんが目を腫らして泣いている。ハンカチを頬に当てて、被害者ですって感じだ。
「嘉内くんからの告白勝手に断って、嘉内くんと付き合うなんて。稲見さん、チョー意外! 」
俺の名前が出て、メンタルがぐらついた。やっぱり俺の事か。伊波さんの事を好きなのは何となくバレていたのか、それよりも男子の大半は伊波さん好きだよな。人気の美少女だし。
「女子たちコエ―!! 」と、佳苗のクラス男子たちが騒いで空気を煽る。
「……やる事が汚い」
「嘉内くんと別れなよ!! 」
佳苗は俯き逃げることも出来ない状況に置かれている。伊波さんが先に泣いて、佳苗は泣いて誤魔化すのも出来ないんじゃないのか?
「嘉内くん、これ知ったら稲見さんと別れるんじゃない? 」
「私は、勝手に断ってない……」
佳苗は気丈に否定した。
ひくっひくっと、嗚咽する伊波さん。彼女を好きだった事を俺は忘れかけていた。俺は、佳苗の窮地の方が問題だ。佳苗には味方がいない。
「佳苗! 」と、俺は人集りの中へ割って入った。
「嘉内くん……」と、目が合うと同時に「ごめんね」って目が訴えてる。いや、でも俺が原因だろ。
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