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 学生の時もそうだった。    鏡に映る自分を見て、顔の表面にいつの間にかできている〈あれ〉を発見する。少し前から兆候があったものもあれば、気付かないうちにできているものもあって、どちらにせよ、〈それ〉ができていると知った時には、気持ちがとても落ち込んだ。    〈それ〉が肌の表面にできているとき、小さなものであっても、〈それ〉は私に支配的だった。〈それ〉があるせいで、その日のメイクや着ていく服、人との距離感などに翳りを及ぼす。    〈それ〉は些細なことじゃない。〈それ〉は私にとって、その日の気分や行動を変えてしまう十分な要因になった。    大学の講義で、少し気になっていた先輩と偶然席が隣になって、しかもノートを忘れたからルーズリーフを分けてほしいと頼まれた時があった。弾む気持ちを抑えてルーズリーフを一枚渡したら、先輩は小声でありがとうと言って、私の目を見た後、その視線がわずかに外れたのに、私は気付いた。すぐに分かった。先輩の視線の先にあったもの、その目がとらえたもの、朝起きた時口元に出来ていた、〈あれ〉。    喜びと高鳴りは束の間、それは恥ずかしさと悔しさに変わった。その感情に体温が上がり、嫌なことに、その熱は口元の〈それ〉に集中したように感じる。私の思い込みかもしれないが、口元に出来た〈それ〉のせいで、私のすべてが決められたような気がした。拭って消えるならすぐにでもそうしたい。でも〈それ〉は軽々しく触ることは許されない。下手に触れば悪化する可能性があるからだ。そんな盾を振りかざして肌に鎮座する〈それ〉を、私は忌々しく思った。いつだってそう。隠したいものほど、心の中を占める。小さなものであっても、それは私にとって大きな傷だった。  そして厄介なことに、〈それ〉は繰り返し私の肌にできた。いろいろ手を変えケアをしているのに、そんな私の努力と思いも空しく、一瞬のスキを突くように〈それ〉は肌にできる。  
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