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次の日も、大した変化なく私の頬に居続ける〈それ〉を疎ましく思いながら、マスクを着けて出社した。
昼休憩になって、美里と食堂へ向かう。その途中、美里がトイレに誘ったのでついていく。そこで美里が、ハンドバッグから小包を出して渡してきた。
「裕香、これ」
手渡されたものを眺めながら、私は美里に尋ねる。
「どうしたの、これ」
「私のお姉ちゃんがここのメーカーで働いてて、その試供品なんだけど、私はここの買って使ってるから、これ裕香にあげる」
「え、いいの?」
「うん、裕香の肌に合うかわかんないけど、合わなかったら処分してくれていいし。私も学生の時すっごく肌荒れてて、その時、お姉ちゃんがこれを薦めてくれて、それがすごく良くて。だから裕香ももしよかったらどうかなーと思って。迷惑じゃなかった?」
じんわりとこみあげてくるものがあった。きっと美里も、肌が荒れているときの気持ちの揺らぎを知っているのだろう。だからこそ、デリケートなことであると弁えられた声のトーンとセリフと、計らいがとても嬉しかった。
「ううん、ありがとう。ごめんね、気を遣わせちゃって…」
「いいの、いいの。試供品だし気軽に使ってみて。スキンケアは使うものも大事だけど、日々の摂生も大事!だから今日は野菜いっぱい食べよ!」
手に持ったスキンケアの商品に、肌荒れの克服を期待しつつ、美里の言葉に励まされた私はここ数日の落ち込みから脱して、晴れやかな気持ちで食堂に向かった。
その日の夜、さっそく美里にもらった商品を使ってみた。同封された説明書の手順に従って試していく。心なしか、すっと肌になじんでいくような気がした。今までスキンケアをしてこなかったわけではない。それこそ藁にもすがる思いで、ネットの色んな商品や方法の、レビューや口コミを詳細に眺めて、あの手この手を繰り返してきた。病院に行って医療品に頼ったこともある。しかしいつもその甲斐なく、正直どれも決め手に欠けていた。だからこそ、その都度試すものに期待を寄せる。何とか今回で、肌荒れとおさらばしたい。そんな風に願いながら、私は説明書に記載されていた工程を終え、美里の言っていた日々の摂生という言葉を胸に、早めに眠りについた。
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