それはそれで

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 ずいぶんと身勝手なものだ。  他に女を作って出ていって、立派な大人になって嬉しいですだと。誰が育ててくれたと思っているのだ。  私も今は彼氏の朔也と喧嘩中だ。朔也はサークルの一年生と二人で映画に行っていたのだ。 「絵美がそれ観たくないって言ったからだろ?」  朔也は口を尖らせて、そう言った。他の女の子と行くくらいなら、私が行くよ。でも、違うでしょ? 彼女に断られた、なんてことを口走って、そこにつけこんできた後輩に、鼻の下を伸ばしたでしょ? それを差し置いて、私のせいにした。身勝手なものだ。  この人も朔也もあまり、変わらないと思う。  男って、そんなもんなんだろう。  でも、ひとつ気になったんだ。  ──立派な大人になって嬉しいです。  そうか。と、思う。    この人は私の写真を見ているのだろう。それは、お母さんが送っているのだろう。  私のお父さんは亡くなった。これからもそう思うことにする。それは変わらない。花束の送り主は、あくまで『この人』だ。  でも、この人は毎年、私に誕生日プレゼントを送ってくれていた。毎月、私にお金を振り込んでいてくれた。それに、お母さんとずっと連絡を取り合って繋がっていた人なのだ。 「お母さん」 「ん?」  お母さんは日常に戻って、洗い物をしている。 「この人、いや、お父さん、家族はいるの?」  じゃあああ、と水栓からシンクへ流れ落ちる水量が多くなった。 「さあ? わたしは何にも知らないわ。いるのかもしれないし、いないのかもしれないし。どっちでも良いんじゃない?」  私は隠れて笑った。  嘘の下手なお母さんだこと。 「お母さん」 「ん?」 「ありがとう」  お母さんはかっこよくウインクした。 「あとさ、言っといて」 「何を?」 「お父さんに。ありがとうって」  お母さんは一番嬉しそうな顔をした。 了
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