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「お母さん、手紙とか、ついてないわけ?」
お母さんはもう、いつものお母さんに戻っていた。
お母さんはこの十七年間、ずっと一人で抱え込んできたのだ。ダイニングで夕食を食べるとき、この写真立てをどう見て過ごしてきたのだろう。私が幼い頃、どんな気持ちで手を合わせて拝む我が子を見つめただろう。
「一応、あるわよ? 今までもお手紙あったんだけど、死んじゃってるわけだからさ。出せなかったの」
お母さんは手を叩いて笑った。私も笑った。
お母さんは手紙を全て残していた。最初の頃の手紙は擦りきれて、黄ばんでいる。
無邪気に色んな私への思いが書き連ねてある。申し訳ないけれど、そんなに心には入ってこなかった。
でも、どれも厚手の和紙でできたしっかりした便箋だった。
二十歳になった絵美へ、という手紙が最後だ。
『二十歳になった絵美へ 大変な世の中になってしまいましたね。お母さんと元気に過ごしていますか? 立派な大人になりましたね。とても嬉しく思っています。何もできませんが、幸福が訪れるというお花たちを送ります。十年後、二十年後、ずっと幸せでありますようにと祈っています』
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