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「絵美、ちょっとだけ、いい?」
お母さんの作っている笑顔には、どこか無理が隠れていた。
「やなこと?」
「……うーん、とりあえず、座って?」
ダイニングテーブルの奥にお母さんは座っていた。向かい合わせに置かれたランチョンマットの上にミルクティーが置かれている。
確かめたことはないけれど、お母さんは大事なときや私を励ますとき、必ずミルクティーを淹れている。
静かに椅子を引いて、ちょっと気まずく腰かけた。コトントン、と椅子がフローリングを蹴る音だけが響く。
「絵美もずいぶん大人になったわね」
「なあに? あらたまって。ちょっと、怖いんだけど?」
お互いに、奥歯に何かを挟めたままのような笑顔を浮かべている。
キッチンカウンターには、いくつもの写真立てが飾られてある。1……2……3……10個、ある。そのうち9個は私の写真だ。ひとつは、遺影が飾ってある。キッチンカウンターに置く用にサイズを小さくし、木枠の写真立てに入れたものだ。
お母さんはおもむろにカウンターへ手を伸ばした。左から三番目に置かれていたその遺影の写真立てを、ぱたむ、と下向けて閉じた。
「絵美……ごめんね。これ、遺影じゃないの」
そう言って、気まずそうに笑った。
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