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 結局、カツカツと鉛筆で刻むビートを聞きながら一人で弁当を食べることになる。  本当の父親なら厳しく言って聞かせて夕飯を共に食べるのだろうか。謎だ。  真琴の玉子焼きを箸で掴みながら、嫁の願いを叶えられず、息子に結局言い負かされて、夫としても親としても失格な気がして気分が落ちる。  こんなはずじゃなかった。歳の近い息子と仲良くゲームしたりするのを思い描いていたのに。  真琴の得意料理である唐揚げを噛みながら「旨いな」と呟くと、佳那汰が一瞬文字を書くのを止めたが、直ぐに元通り。 『旨いな』 『そうでしょ? 俺も食べる』  頭の中で楽しそうな親子を演じて、現実とのギャップにため息が出そうになった。  旨いんだって、食えよ。お前の大好きなお母さんの唐揚げだぞ。俺の嫁は唐揚げの天才なのに、一人で食ったらコンビニ弁当と変わんねぇだろ。  言いたいことは山ほどあるが、関係を悪化させたくなくて、とにかく完食して、弁当箱を流しに持っていった。ジャーと水を落として弁当箱を浸す。最後にポタリと落ちた水滴に寂しさを感じて背を向けた。
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