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部屋を覆う沈黙がエアコンの唸り声で埋められていく。合間にカツカツと鉛筆で文字を書く音が混ざる。
雅晴は壁に寄りかかって胡座をかき、手にしていた麦茶を啜った。
「啜んなよ、うるせーし」
文句を垂れながら、顔すら上げないのは雅晴の息子 佳那汰。小生意気な小学四年生だ。
言われて啜るのを止めるのも癪なので、とりあえずコップから口を離した。
雅晴は結婚して半年になる。佳那汰は結婚した真琴の連れ子だった。真琴は童顔でパッと見、二十歳くらいにしか見えない。付き合い出して自分より五個も上だと聞かされビックリしたが、さらに子供が居ることにも驚かされた。しかも、会ってみたらこんなに大きな子供だ。せいぜい幼稚園児くらいだとたかをくくっていたので、驚きに次ぐ驚きだった。
「仕事いかねぇの?」
「行くけど、お前が宿題終わったら夕飯一緒に食って……」
「えー、もう? まだ五時なのに? いつも言ってんじゃん一人で食べられるって」
「それより遅くは俺が仕事に間に合わねぇんだよ。待ってやってるのにその言いぐさ」
「待ってて何て言ってないじゃん」
反抗期なのか口が悪いだけなのか、それとも十四しか離れてない男が親になったのが嫌なのか、佳那汰はこれっぽっちも懐かない。
「雅くん、本当に申し訳ないのだけど、佳那汰と夕飯食べてくれる?」
同居しだした当初、真琴が二人分の弁当を手渡して雅晴におずおずと願い出た。
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