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 とにかく必死だった。ローンで買った車に飛び乗って中川へとアクセルを踏み込む。景色なんて見えなくて、かろうじて信号には反応し急ブレーキ、そして青になれば再びアクセルをグイッと踏んだ。たかだか十分程度の距離だからほんの少し頑張ったところで大して変わらない。冷静ならそう思っただろうけど、雅晴はとにかく一秒を争うように河原を目指していた。  可愛いところなんてない。母親の真琴より、見たことのない元旦那に似ている佳那汰。態度だって本当に可愛いなんて思ったことがない。それでも、決めたから。親になるって決めたから、家族になるって決めたのだ。  テレビを観て笑い転げている佳那汰。見ているだけでなんだかぼんやりとした幸福感を味わったりしていた。そういうありふれた日常が愛しく、それが家族なんだと心のどこかで感じていた。それなのに、いつまで経っても『お父さん』と呼んでくれないことに拗ねたりしたからバチが当たったのだ。  河原の近くにある駐車場に車をでたらめに止めると、文字通り飛び出した。高い土手を這い上がると規制線が張られ、その手前でリポーターやらテレビカメラやら野次馬たちがわんさか居るのが見えた。 「佳那汰! どこだ、佳那汰!」  川を見たときから叫んでいた。額から流れ落ちる汗があらんかぎりの大声をあげる度に滴となって顔の輪郭を伝い落ちていく。 「佳那汰ー!」
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