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「この青いのが三環系で…」
まるで路上市場の商品紹介でもするように説明しはじめた。
「一般的にこういうの飲んでる人は痩せてるイメージあるでしょ?実際は太りやすいものが多くて、、あ!僕はね、これだから!」とシャツを脱ぎお腹を指差した。
まるで粘土を殴ったように右脇腹が不自然に凹んでいて、そこを指差した人差し指と中指の付け根にタコができている。
それよりも気になったのはニコニコと笑う口元から覗く魚のようにギザギザしていて形もバラバラな歯。正直言って怖いと思ってしまった。
ああ、、、この人、、吐いてるんだ…。
吉井さんの歯は胃酸で溶けていた。
吐きダコと凹んだお腹は無理やりでも吐くために殴りつけてできたからか。
どう接したらいいんだろう。
なんの自信もないよ。
当時の私は後々と違い、よく笑うとかよく話すとかそういう接客ではなくぼんやりして無機質で少し取っ付きにくい子だったと思う。
良く言えば素朴な素人。
何を言われてもお客さんに対して怒るとかそういう事もなくて(数年後に変異する)世間知らずの素朴な素人がお客様に手ほどきをしてもらう、そんなイメージでお店は売り込んでくれていた。
吉井さんは元外科医だった。
しかし過酷な現場で精神を病み、精神病棟に入院した後リハビリ生活を送りながら暮らしていた。
「人を救うってなんだろうね。毎日毎日亡くなる人を見送って無力だったよ」
高校生の頃は社会科教員になるのが夢だったが医学部に進学した。
そんな急な進路転換、かなり優秀に違いない。
「シルクロードに興味ある?」吉井さんは医療の話は一切せず目を輝かせた。
かつては愛することができていた自分。
でもこれだけは今も自分をもてはやしてたまらないのだ、と言ったような口調だった。
「僕はね、大量に薬飲んでるしそんな気にもならないし、勃つこともないからいいよ。」と言ってサービス時間の60分ずっと世界史の話だけをして帰って行った。
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