⒉ 暗雲

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 そんな舞莉をよく思わない人が1人。  入学した時の最初の席で、舞莉の隣だったハーフの女の子、矢萩ルイザだ。  チヤホヤされている舞莉を見て、楽器を片づけながら舌打ちをする。 「私だって、先輩押しのけてアンコン出たのに。」  アンサンブルコンテストに出たメンバーの中で、唯一の1年生だった。 「パート移動、私だってしたいし。こんなヘタクソな先輩の元でやりたくないし。」  リュックサックを背負うと、チューナーやストラップをしまっている舞莉を後ろからにらみつける。 「うわ、雨降ってる!」 「うそ! 傘持ってきてないよ!」 「私の傘に入る?」  午前中まで晴れていた空は、だんだんどんよりとして、ついには雨も降り出していた。  最近肩こりが気になり始めた舞莉。  置き勉禁止をしっかり守っていてリュックサックが重たいせいもあるが、バリサクのせいでもあるだろう。6キロを首1本で支えているのだから。  舞莉は暗雲を見上げ、片耳が欠けたネコの折りたたみ傘を開いた。
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