⒊ 居睡

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「顔を上げてください。」 『マードック』と『クシナダ』の2つに丸がつけられている。  あぁ、熊野古道ダメだったか……。 「それでは、この2曲のどちらかを選んでください。」  それならもう、2回目の多数決では迷わない。 「あの2つだったら、俺はあの曲だな。」 「僕は……あっちかな。」 「さて、舞莉はどっちを選ぶのか!」  舞莉の膝の上で勝手に実況が始まったが、もう決まっている。 『2曲に絞ったし、もう言っていいよね? 私、クシナダがいいかな。』 「おお、舞莉はクシナダを選びました。どう思いますか、バリ?」 「え、えぇ!? 僕に振るの! ……えっと、どちらも作曲者が同じこともあり、接戦になりそうですね。」 「なるほど、どちらも樽屋雅徳ですからね。」  実況が聞こえていないフリをしつつ、舞莉は、カッションが作曲者の名前を呼び捨てしていることに、少し違和感を覚えた。 「はい、顔を伏せてください。」  舞莉はもちろん、『クシナダ』の方に手を挙げた。  みんなはどっちにしたんだろう。 「顔を上げてください。」  音楽室の空気は明らかに緊張している。 「多数決の結果、――」  どっちだ……? 「『クシナダ』に決まりました。」  おお、よかった……!  自然と拍手が起こり、他の人の反応からして、そこまで接戦ではなかったのかもしれない。  1月の半ば、舞莉たちは既に夏のコンクールに向けても動き出していた。
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