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それから1時間くらいしてから少し遠回りをして家に帰った。昴はゆっくりと歩きながら、ペルセウスとアンドロメダは夫婦なんだとか秋にはよく見れるとかそんなことを延々と話していた。
だが私はずっと上の空だった。
「おいっ!おい聞いてるか?」
「え?何?」
気付いたら家の門の前に着いていた。顔を上げると昴が真剣な顔を私に向けている。
「お盆おまえどっか行くのか?」
「どこも行かないけど...なんで?」
「いや話聞いとけよ。...もういい。」
ほぼ聞いてなかったのでさすがに昴も拗ね気味だ。
私はさっきから“永遠に叶わないアンドロメダ”のことで頭がいっぱいだった。
「ーーアンドロメダ。」
「え?」
昴が発した言葉にギクリとした。
私もしかして声に出してた?!いやいや出してないはず...。
「アンドロメダ座ってさ、日本でも昔からいろんな呼び名があるんだよ。知ってるか?」
「いや知らないけどそんなの。」
「昔、倭の国ってあったろ。その倭人達がアンドロメダ座をなんて言ってたかっていうと......」
「...?なに?」
「.........いや。聞いてなかったおまえが悪い。自分で調べてくれ。じゃ。」
昴はそのまま振り返らず家に帰って行ってしまった。
私は帰って自分の部屋に戻ると床に座って携帯を開いた。
「何よあれ。倭人っていつの話だし。」
検索のページを開いて文字を打ち込む。
「倭人...アンドロメダ...和名?」
ーーするとその瞬間。
目に飛び込んできた『名前』に言葉を失った。
「文綾(あや)の星......?」
手が震える。
必死で頭の中を整理しようとすると噂になっていた昴の言葉が頭をよぎった。
《俺には心に決めた“アンドロメダ”がいるから》
「.........何よそれ。てかそんな大切なこと昴こそ直接言いなさいよ...」
「うん。そう思ってやっぱ直接言いに来た。」
「え?!」
突然後ろから声がして振り返ると、昔のように窓づたいに入ってきた昴が窓枠に腰をかけて見下ろしていた。
少し照れくさそうに一瞬視線を逸らした後、真っ直ぐ射るように見つめられる。
「好きだ綾。アンドロメダ銀河を見るより前から。」
その言葉に一撃で致命傷を負わされる。
私は撃ち抜かれた胸を手でギュッと抑えた。
「................不法侵入。」
「返事それかよ。おまえのそのセリフ聞き飽きた。」
と言われても必死に絞り出したらその言葉しか出てこなかった。
「て、てかあんた星にしか興味なかったじゃない!それに最近じゃ全く会わなくなったし...」
「ん?あーそうだな。でも俺はいつも見てたよ。隣の窓のアンドロメダ。カーテン開かねーかなって。てかおまえこそ俺のメッセージいい加減気付けよ!」
「メッセージ?......ってもしかしてあの告白の返事のこと言ってんの?だとしたら遠回しすぎるしマニアックすぎ!わかる人なんて普通いないよ!」
「.........だな。すまん。」
はにかんで笑う昴に、胸に負った傷が更にえぐられた。
心臓が高鳴ってうまく息ができない。やばい死ぬ。
私は昴の膝にコツンと拳を当てた。
「......許す。今日は流れ星も見れたし。」
昴は嬉しそうに目を細めて破顔した。
「なぁ綾。さっきおまえが聞いてなかったこともうひとつあんだけど。」
「え?何?」
「...あのさ、明日の花火大会一緒に行きたい。できれば来年も再来年もずっと。」
「え.....!」
もしかして今日珍しくたくさん流れ星が見れたのは、初めて星に願ったからかもしれない。
流れ星が見たいと。願いを叶えて欲しいと。今年も昴と一緒に花火を見に行きたいと...。
「うん!絶対行く!!行きたい!」
願い事がもうひとつできてしまった。
まだ間に合うかな?でももし私がアンドロメダなら、間に合わなくても私自身に星を降らせて願えばいい。
「...私もずっと前から好きだったよ昴。天文オタクでもいい。これからはずっと一緒に流星群見ようね。」
ーーその刹那。
夜空をバックに微笑む昴の横で、流れ星がひとつキラリと輝いた。
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