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正直、私は星座なんて全く興味ない。
星は綺麗だと思う。見るのも好き。だけど星座なんてオリオン座と北斗七星くらいしか区別つかないし、本に載ってる星座の絵を見ても全く現実の夜空と結び付けられない。
私は、祖先達が残した“夜空に広がる星の物語”に魅力を感じたことなんてなかった。
昨日まではーー。
ーーガチャ。ビクッ!!
隣の家のドアが開いた瞬間、自分家の門の前で3分前から息を潜めて立っていた私の心拍数は、途端に跳ね上がった。
「あれ?綾、おまえそんな薄着で何してんだ?出掛けんのか?もう22時だぞ。」
「......昴だって。どうせ今日もペルセウス座流星群見に行くんでしょ。」
「よくわかったな。さてはおまえ、俺の部屋の電気消えるの窓から覗いてたな。」
「なっ!馬鹿じゃないの!!」
図星だ。
私と昴は家が隣同士の幼馴染み。部屋も目の前なのでよく窓からお互いの家を行き来して遊んでいたものだ。
だが今年の4月に高校に上がってから同じ学校でもプツリと遊ぶことはなくなった。それぞれ部活もあるので行き帰りも一緒にはならないし、クラスも離れているせいかなかなか顔も合わせない。
こうやって目と目を合わせて話すのなんて4ヶ月ぶりだ。毎年密かに楽しみにしていた花火大会も、今年はきっと一緒に行くことはないだろう...。
「そんでどこ行くんだよ。」
「え...別にいいじゃないどこだって!私も流星群見に行こうかなってちょうど外に出たとこなのよ!」
「ふーん珍し。じゃあ一緒に行くか。夜に女1人ってのも危ないしな。その前にほらよっ。これでも着とけ。」
昴が羽織っていた薄手のパーカーを脱いで放り投げてきた。私は慌ててキャッチする。
「これ...着ていいの?」
「夏舐めんなよ。そんな肌出してりゃ蚊の餌食だぞ。」
「げ。」
私はドキドキしながら腕を通した。手が出ない。
中学生までは体格もそんな変わらなかったはずなのに、いつのまにこんな大きくなってたんだと驚かされる。
「おまえが着るとあれだな。服に着られてる感じ。」
「うるさい。」
「ってかやっと天体に興味出たのか。どんだけ説明しても『へー』しか言わなかったのに。」
「あんたのオタクっぷりに引いてたのよ。」
昴は天文学者のお父さんの影響で小さい頃から天体観測が好きだった。夜になるとお互いの部屋の窓からよく一緒に夜空を見上げて一方的な説明やうんちくを聞かされたものだ。
「今日は手ぶら?」
「ペルセウス座流星群は、ふたご座流星群としぶんぎ流星群に並ぶ3大流星群のひとつだぞ。今日みたいな条件がいい日なら肉眼でも1時間に100個は見れるかもしれない。“だるまさんがころんだ”くらい常識だ。」
その常識は“普通の人”の常識じゃないって教えた方がいいのかな?
『1秒で“だるまさんがころんだ”を言えるように特訓して流れ星が流れた時間をそれで概算測定する』なんていうのは、アマチュア天文家の中の話であって知らずに生きて行く人がほとんどだ。
私だってこんな天体オタクが幼馴染みでなければ“だるまさんがころんだ”を1秒じゃ言えなかっただろう。
「今日はどこで見んの?いつもの河原?」
「んー。そう思ってたけどおまえがいるからな。そこの公園のベンチにするか。」
緩やかな土手がある大きな河原までは歩くと少し時間がかかる。どうやら私のベランダサンダルを見て気を使ってくれたらしい。
昔からそういうとこは優しいんだよね...。
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