窓越しにアンドロメダ

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 公園に入ってすぐのところに大きな石製の椅子がある。正方形なので大人が3人は寝転がれる大きさだ。よくここでのんびり昼寝をしている人を見かける。 昴は迷わずそこに向かいゴロンと寝転んだ。 「ほら、綾もここに寝転がれ。特等席だぞ。」 隣の空いたスペースをポンポンと手で叩いた後、頭の下で両手を組んで昴はさっそく夜空を眺め出した。私も同じように寝転がって空を見上げる。 「わぁー綺麗.....」 「だろ。あっほら!今見えたか?」 「見えた!!すごいこんな早く見れるなんて!」 「おまえそいや昔から運悪くて見えないこと多かったもんな...。」 その同情に満ちた声やめてくんないかな。 だがその通りいつも昴が見る半分くらいしか私は見れない。いつもなんでなんだろうって不思議に思ってた。  しばらく2人とも黙って夜空を見上げていた。昔からそうだ。星を『探している』ときは声は出さない。天体観測中はより自然と溶け合うことが重要だ。不必要な灯りは全て消し、騒がず、じっとしている。 夜空にひとつ、またひとつと星が流れた。 目が離せなかった。夜空を見上げてこれほどまでに美しいと心が動いたのは初めてかもしれない。 「よく『星が降る』って表現するけどさ、流れ星が流れる時って、振るっていうより駆け抜けるとかの方が正しいように感じるな。」 まるで氷上を滑るように、野原を駆け抜けるようにさっきから星達は夜空を横切る。 「綾がそんなこと言うの初めてだな。でも俺もそう思う。」 優しい声に顔を横に向けてみると、手を下ろした昴がにかっと満面の笑みで私を見つめていた。 私は何も言わずに顔を夜空に戻す。 全ての神経がすぐ隣にいる昴に集中してしまう。無意識に真っ直ぐ置いていた手は、昴の手とあと1㎝くらいで触れてしまいそうだ。 心臓がうるさい。でも大丈夫。ばれない。顔が赤いのだってこの暗闇じゃ見えない。ばれっこないーー。  昴を好きだと気が付いたのは、高校に入ってからだった。 天文部がないのでしょうがなくサッカー部に入った昴は、持ち前の運動神経の良さで即スタメン入りを果たした。クラスの遠かった私にも昴の情報はよく耳に入り、かなりモテまくっていると知った時は驚愕した。 その時だ。自分の中のモヤモヤが“やきもち”だと知ったのは。 だが残念なことに昴のモテ全盛期はそんな長くは続かなかった。というのも昴自らモテ期を強制終了させたのだ。 どうやら昴に告白をした女子達は皆同じセリフで振られ、その内容が変だと噂になっていた。そのセリフとは...... 「『俺には心に決めたアンドロメダがいるから無理』って断り方はどうかと思うよ。」 呆れ返った私は眉根を寄せて昴を見た。すると昴は目を丸くして見返してくる。 「な...んでそれを......」 「せっかく人生に一度しかないモテ期なのに自ら変人を豪語してどうすんのよ。」 「一度しかないって...辛辣だな。」 私は顔を空に戻してため息をついた。 「あんたの噂よく耳に入るよ。随分モテモテなことで。」 「っ!それを言ったらおまえだって!幼馴染って聞きつけて何度俺が手紙を渡してくれだのあいだを取り持ってくれだの言われたことか!本人に直接言えって突っ返したけどな。」 「.........直接ならいいんだ。」 「ん?何か言ったか?」 好きな人に好かれないなんて意味ない。 私は知ってた。 昴が星に魅了されたキッカケは小1の時に見たアンドロメダ銀河。アンドロメダ座に位置する地球から目視可能な渦巻銀河をお父さんに見せてもらって以来、昴は星に恋をした。 昴の心の中に誰も入る隙などないのだ。
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