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7 夜空の花
初日を無事に終えた農業婚活の二日目。地域の神社の祭りに乗じてカップル成就を企む戦略家の優奈は、参加女子に地域おばさんの手を借りて浴衣を着せていた。
「さあ、できた」
「お綺麗ですよ」
地域おばさんの褒め言葉に、参加女子達は嬉しそうにしていた。優奈は歳の変わらない彼女達に写真を撮っていった。役員だった優奈はジャージ姿の汗だくで彼女達の支度を手伝っていた。
「ところで。優奈ちゃんは農家の嫁さんは嫌なのかい」
「そういうわけでは無いんです」
地域を仕切るゴット婆達と休憩できるレベルに達していた優奈は、胸の内を打ち明けた。
「この地域の農家さんはみんないい人です。だから私一人がお嫁に行くよりも、まだ私の知り合いが若いうちに、みなさん全員にお嫁さんを見つけてあげたいんです」
「……みんな?優奈ちゃんに拍手!」
こんな昼下がり。参加女子達はそれぞれ気になった農業男子が神輿を担ぐ様子に興奮している様子だった。
そしてそれぞれが二人で話をしている様子に、優奈も胸を熱くしていたが小林に場を任せ、駅前に車でやってきた。
「優奈って運転できたのか?」
「人間やればできるんだよ?翔平。遠くまで悪かったね」
慰謝料を直接手渡したいという彼を、優奈は今時間、人がいない道の駅に連れていた。
「これ足湯だけど、スーツだもんね」
「あーあ。入りたかったな。ええと今日ってお前、休みなの?」
今の仕事が複雑なので説明が面倒な彼女は、彼に詳しく話していなかった。そんな優奈は、時間がないのでさっさと手続きを済ませたかった。
「これうちで人気のそば茶。あの、このお金って。本当にもらっていいの?」
「ああ、でもサインくれ……ん!美味いなこれ?」
やはり彼は書類を持参しており、二人の交際は解消になり、今後一切請求しないという念書を求めてきた。優奈はこれにサインをした。
「ハンコも押したよ。はい」
「悪いな。サンキュー」
頭をかきあげた笑顔の変わらぬ彼は、優奈には弟とか従兄弟のように感じた。
会うまで不安であったが、彼はもう恋人じゃないと優奈は自分に言われた気がしていた。
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