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声が聞こえたのか、彼女は私に近づいてきて、こういった。
「ああ。ごめんね。君の分も用意しないと。大丈夫。ちゃんと作ってあるよ。」
今持ってくるからねとやさしく言って、また足音が遠ざかっていってしまった。
いや、起こしてもらえればそれでいいのだけどと思うも、やさしい彼女の言葉にほだされて黙ってしまう。
結局は彼女と一緒にいられればそれでいいのかもしれない。しかしそれでも、やっぱり彼女の料理は食べたい。
美味しいかどうかは二の次で、彼女が私のために作ってくれたものを一緒に味わえたらそれで十分だった。
「はい、どうぞ。」
そういってそばに暖かい料理を置いてくれた彼女は、私のすぐそばに腰を下ろして、そのまま流れるように何か高い音を鳴らした。
その音を機に私の瞼はふっと開き、今までのは嘘かと思うくらい簡単に目が覚めた。
景色が見えるようにはなっても自分の身体は全く見えず、すぐそばには彼女が置いた料理が違和感を持って存在していた。
その違和感の正体はここが仏壇だということ。黒い色を基調とした棚で、敷いてある布などは目立たない色で統一されていた。
鉢には線香がさされていて、その先からは白い糸みたいにすうっと煙が細く途絶えそうになっていた。
そして、目の前には瞳を閉じて手をあわせる女性がいる。
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