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タイトル未定
沈黙が耳に痛いとは、このことを言うのだろう。
雨が降って窓に水が当たる音、風が耳のすぐ横を通り抜ける音、カラスが鳴いて鈴虫が歌う夕暮れの音、近くの民家から聞こえる怒鳴り声、笑い声、泣き声。
そして、彼女の声。
そういうもの全てがない無の世界で、これが沈黙かと身をもって思い知る。
キンキンと鼓膜を破らんばかりの静けさ。まるで私を排除するかのように串刺しにされている気分だ。
いっそ私も消えてしまえたらこの真っ暗な沈黙から抜け出せるのだろうか。
彼女に会える保障もないこの世界にずっと居座るのなら、今すぐに諦めて一瞬で終わりにすることもできるのではないか。
そっと目を開けて、手元の白い糸を見る。この一本の細い糸を離してしまえば、全て終わりだ。
そうすれば、もう苦しまないで済む。今よりもっと楽になれる。
手放してしまいたいという欲望と、理性との葛藤。いつもそれの繰り返しだ。
まだ可能性があるかもしれない、少なくともこの糸を離して私が消えたら、きっともう、本当に微塵の可能性も失ってしまう。
彼女にまた会いたい。そう思うと理性が踏ん張れた。
時間間隔も失い、これを延々と繰り返し、私は暗闇と沈黙に耐えていた。
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