コイゴコロ

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コイゴコロ

ねえ、みんな。聞いて。私の部屋の隣に住んでいる人はね。 私は朝が強い。毎朝ゆっくり朝食を食べて、仕事のある日はお弁当も作って、通勤ラッシュに巻き込まれないように余裕に余裕を重ねた時間に部屋を出る。 そんな私と真逆なのが隣の住人なの。十夜さんは花屋に勤めていて、私より朝が早いはず。なのにね。いつもどこかしらに寝癖をつけて、私と同じ時間に部屋を出てくる寝坊助さんなの。ふふふっ。笑いながら「時間、大丈夫ですか」って聞いたとき「なんとかギリギリセーフ」って彼が答えるのが、一日の始まりだった気がする。おかしいよね。 後で聞くとね。私が部屋を出て来る時間に間に合えば、始業時間にギリギリ間に合うんだって。私、十夜さんの目覚まし時計じゃないですって言ったらね。その日の夜に、お兄ちゃんからだよって十花ちゃんが大きな花束を私にくれたの。「いつもありがとう」って書かれたカードが一緒に添えられていた。この兄妹は本当に私を笑顔にするのが上手だった。 本当に嬉しくてね。この時の花束は今でも私の部屋にのこってるんだ。ドライフラワーにしてね、長く長くその時の思い出と一緒にいたいと思ったんだ。 十夜さんとすれ違うときはね。いつだってふわりと花の香りがしているの。本人は気づいていないのかもしれない。 例えばユリの花。 例えば菊の花。 例えばカーネーションの花。 例えば蘭の花。 少し強めの香りを放つ花たちが、十夜さんの周りを漂っているみたい。十夜さんとただの隣人で友人だった頃は、それが何の花かわからなかったけど。
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