はじまりは悲しみから

1/35
1556人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ

はじまりは悲しみから

「はぁ……」 神戸艶子(かんべつやこ)は、フロア中に響いてしまうような大きなため息を一つ吐いた。 時刻はPM11:30。 Naoコーポレーションのマーケティング部のフロアに残っているのは、今夜は艶子一人だけ。 Naoは日本を代表する電子機器メーカーであるが、最近では電子機器だけでなく風力発電や放送業、保険業など様々な事業を展開している。 そのため、Naoの本社である28階建てのビルには営業部や広報部など艶子以外にも残業している者はいて、ビル全体が美しい夜景に貢献している。 今夜は23階のフロアで艶子も夜景の煌めく光の一つになっていた。 「なんか飲もっかな、疲れた……」 なかなか終わる気がしないため、仕事から一旦目を背け、デスクから立ち自動販売機のある休憩室に足を向けた。 休憩室にも艶子だけ。 レモンティを購入し、窓から見える夜景を少しの間楽しんだ後、デスクに戻ろうと歩き出した時、エレベーターの開く音がした。 「清宮さんすみません……」 「大丈夫だよ。ほら、探してきな」 それと同時によく知る声がして、艶子は近くの非常階段に隠れた。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!