蕗の傘。

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蕗の傘。

 やれやれと思う。 でも。この蕗の大群生を、見せてやりたかったのだ。 いや、花もだ。カタクリの群生! [すぐ行くから]とトントンと、蕗の葉を跳ねあがる。 蕗は長さ30cmはあるかも? コロンは11cm、俺でも13cmだ。 その30cm程の蕗から、一気に地面に跳び降りるから コロンに[危険な…]と言われる。 でもコロボックルは身体能力が高いはず? けど、その中でも俺は異常なのかな? 考えるのやめた。 [なぁなぁ、今度は花を見に行こうぜ] 手を貸して、ゆっくり葉の上を飛び降りながら言うと、 ジトッと(にら)まれた。 [それ、どこ?] [アハハ!中腹かなー?調べとくわ] コロンの眼が怖いんだけど。 ******  [人間…は?] [それも調べる、睨むなよー。花を見ようぜ。花!] 地上に降りると小ぶりな蕗を折り、誤魔化(ごまか)す。 [コロン、花好きだろ?花の大群生があると、 爺ちゃんに聞いた] [いつの話よ] [知らね。はい、傘]と折った蕗を渡す。  実際、俺も見たい。 カタクリが良いな、食えるし。 ******  上流は樹が生い茂り、昼間でも薄暗い。 日光は下生(したば)えの草達には、届かない。 春に咲くハルジオンの花さえ、山間(やまあい)にはない。 新芽が芽吹く、冬枯れの樹々に先乗りして、 葉が茂る前に草達が芽吹き、花を咲かす。 二リン草やキンポウゲ。 いわゆる、山岳植物。 よくある、ニッコウキスゲ〔この北海道はエゾゼンテイカ〕も 中腹。食えるカタクリの群生も中腹だ。 [人間ズルイな、食えるものは全部下流か、中腹だぞ] [ボックルは、食い気がはってる] [お前なー] ******  しとしと雨の中を、蕗の傘で並んで歩く。 ボックルの背中には、畳んで丸めた、蕗の葉の部分。 重いから、茎は1cm捕り、後は置いて来た。 アキタ蕗の茎は肉厚で太い。 これだけで、数件分の夕食になる。  2人の手には生えたての蕗の若葉の傘。 小雨と言っても、コロボックルには大きな雨粒の(かたまり)だ。 直撃が危ない。 小雨はやがて晴れ上がり、雨粒を樹々が吸い込んでいく。 [梅雨の晴れ間かな?今のうちに急いで帰ろう] ボックルはそう言うと、指笛を鳴らした。  
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