もう少しだけ

2/24
前へ
/24ページ
次へ
「ねえ、もうこの傘借りちゃおうよ」 塩見さんがそう言って、水色の傘を指さした。 (え、いや……その傘、あたしのなんですけど!?) あたしは心の中で叫ぶ。 でもそんな心の声がが彼女に届くはずもなく。 「明日早く来て戻しとこうよ。ちょっと借りるだけで、盗るわけじゃないし」 そう言いながら、塩見さんはきょろきょろとあたりを見渡した。 あたしはつい、靴箱の陰に隠れてしまう。 「え、でも持ち主困るんじゃない?」 山内さんが心配そうに言った。 はい、その通りです。とっても困ります。 「誰もいないし、もううちらが最後だって! 絶対今日休んだ人の置き傘か忘れ物だよ」 力強く言い切る塩見さんに、あたしは白旗を上げた。 だって、隠れたのはあたしだったから。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加