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「ねえ、もうこの傘借りちゃおうよ」
塩見さんがそう言って、水色の傘を指さした。
(え、いや……その傘、あたしのなんですけど!?)
あたしは心の中で叫ぶ。
でもそんな心の声がが彼女に届くはずもなく。
「明日早く来て戻しとこうよ。ちょっと借りるだけで、盗るわけじゃないし」
そう言いながら、塩見さんはきょろきょろとあたりを見渡した。
あたしはつい、靴箱の陰に隠れてしまう。
「え、でも持ち主困るんじゃない?」
山内さんが心配そうに言った。
はい、その通りです。とっても困ります。
「誰もいないし、もううちらが最後だって! 絶対今日休んだ人の置き傘か忘れ物だよ」
力強く言い切る塩見さんに、あたしは白旗を上げた。
だって、隠れたのはあたしだったから。
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