第81話 我を忘れることなかれ

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第81話 我を忘れることなかれ

 街の電機屋で新しいラジオを買ってきた。喋るラジオに未練はない。 少し薄情な気もするが、 感動の別れに横槍を入れてきたスミス・J・新村への怒りが勝る。 今度こそ当選発表を聞こう。 「改めてこんばんは。  教祖 安本様から担当変わりました、スミス・J・新村です。  私は理不尽ノ國より、  リー夫人に背骨を軋ませられながら、お送りしております。  それでは、先週の宝くじの当選発表を行う前に、  いくつかお便りの方を破り捨てていきたいと思います」 過激派ラジオパーソナリティ。到頭、奴の本性が露わに。  ツルツル キラキラ ノロノロ ズキズキ 擬態語が耳に届いてくるのはなぜだろう。 「おかげでストレス発散になりました。  リスナーの皆さん、ありがとうございます。  ……ちょ、ちょっと痛いって! あうっ! うえっ!  たった今、野生の麒麟に襲われています!」 収録現場で横暴ファンタジーが実現。 この流れだと、河童なども後々出てきそうな気がする。  「ふー、何とか追っ払えました。   はぁ……はぁ……当選文字列は……”UNLUCK……」 スミスが大事なところで力尽きてしまった。 最後の一文字が『Y』であれば、10億ドルが吉村さんの懐に入るというのに。 「どうも、河童です。当選文字列は、”UNLUCKY”です。よい週末を」 河童だ。とても落ち着いていた。 対して吉村さんは、当選の喜びから声にならない叫びを放つ。 ツルツル キラキラ ノロノロ ズキズキ ラジオではないどこからか、また擬態語が聞こえるぞ。 ん? 吉村さんの足元に宝くじの左半分が落ちている。 え、嘘……だろ?
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