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第85話 押しても駄目なら
道なりに進むと、ノベラビ列車の始発駅『美戯仁宮』に辿り着いた。
そこは真紅に染まった巨大な宮殿であり、
いかにも艶めかしい花魁などが出てきそうな外観である。
お、噂をすれば侍。
腰には12本の刀を携え、
頭にも12束のちょんまげのある侍が入口前で暴れ回っている。
どうやら扉を無我夢中で押しているようだが、一向に開く気配はない。
「なんでおいらが中に入れないんだ!」
身なりを見直せい。扉の中央には、『TPOを意識すべし』との張り紙がある。
俺が直接そのことを伝えると、奴は顔を顰めて言った。
「おいらの格好はそんなに変なのか? まぁ、あんたのいうことも一理あるでな」
いや、百理ある。この九十九理の見落としは切腹ものだ。
「おいらの名前は十二右衛門、お初にお目にかかる。
”12”という数に異常な執着心を見せる現代の侍でな」
厄介者であることだけは分かる。安易に近づくべきではなかった。
俺たちは、十二右衛門に構わず、美戯仁宮の入口に向かった。
扉を押す。しかし、開かない。
ならば引いてみよう。
が、何度試しても開かない。引くタイプの扉でもないようだ。
ならば、扉に湯たんぽを押し当ててみよう。
が、六時間待っても開かない。温めるタイプの扉でもないようだ。
ならば、十二右衛門のちょんまげの一つから、液体窒素を噴射して扉を冷却。
が、ドアノブが凍ってなおさら開かない。冷やすタイプの扉でもないようだ。
ならば、先日登場した齧りかけの冷凍鮭で扉を強打して破壊。
開いた。壊すタイプの扉だったようだ。
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