第96話 はじめてのきせい

1/1
前へ
/300ページ
次へ

第96話 はじめてのきせい

 ドッペルヨシムラーの見分け方は、ただ一つ。そう、双六だ。 外見はやろうと思えばいくらでも似せられるが、 双六の実力に限っては長年培った経験が物を言う。 元世界王者である吉村さんなら、素人の俺など一捻りのはず。 と思ったが、その前に奇声を上げて失格になるはず。 俺と二人の吉村さんの計三人で双六真剣勝負が始まった。  先攻は俺。賽の出目は12。 12? 回したのは、一般的な六面賽だぞ。 これは……六面全てが12! 「おいらの特製賽でな。これを使えば、運による不平等がない」 皆同じで、皆いい。 ことわざにも『出る杭は打たれる』というものがあるくらいだ。 それを未然に防ぐためには、この六面賽の使用もやむを得ない。 ついでに申し上げると、出ない杭は打たれないと思ったら大間違い。 油断大敵。俺が打つ。 「いやいや、あんたには打たせんよ。代わりに、あちきが打っちゃるぜぇ」 こういうのを世間では、幻聴と呼ぶ。俺の知人に”あちき”はいない。 まぁ、いい。本質はこれからだ。 とりあえず12マス先は……ゴール! 不覚。あまりにも決着が早すぎたため、奇声確認ができなかった。  ん? 耳を澄ますと、発生源は特定できないが、若干の奇声を鼓膜に感じる。 「……ぁ……えーぃ……」 こんなに音量の小さい奇声は初めてだ。 え? これまた違う奇声が聞こえてきた。 「キェー!  経済とは、中国の古典に登場する四字熟語『経世済民』の略称で、  本来は政治などもその意味に含まれていたんだけど、  日本に伝来して以来、徐々に『生活に必要な生産・分配・消費に類する  活動』という側面が強調されていって現在の定義になったんだって!  諸説あり!」 こんなに内容の濃い奇声も初めてだ。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

612人が本棚に入れています
本棚に追加