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野上陽菜 ①
私、野上陽菜には憧れの人がいる。
それはみんなの憧れ春日井美咲さん。
彼女は容姿も性格も汚れることなく美しく、誰に対しても平等で優しい。
まるで天使のような人。
私はその天使のような人に、無謀と思われるお願いをしてみた。
ーどうか私と友達になってくれませんか?ー
と。
すると美咲さんは天使のような笑みを浮かべ、「もちろん!」と答えてくれて…。
「私、美咲さんとお友達になれて、本当にうれしい!」
野上陽菜は天にも昇る気持ちで春日井美咲の手を取った。
つい先程、陽菜は人生の中で一番勇気を振り絞り、みんなの憧れの的である美咲と友達になれたのだ。
「陽菜さんとお友達になれて私も嬉しいわ。まさか陽菜さんが声をかけてくれるなんて、思ってもみなかったもの」
天使のような美咲の笑みは、陽菜だけでなく、周りにいた全ての人を幸せにした。
「ねぇ、今日のお昼は一緒に食べない?美咲さんだけに教えてあげたい店があるの」
陽菜は他人には聞こえないよう、小さな声で囁く。
「そんな素敵なお店があるの?」
美咲が興味を示すと陽菜は、
「そう。先週できたばかりで、私だけが知ってるお店。私の隠れ家みたいな感じなの」
得意げに答えた。
「是非行ってみたいわ」
「本当に!?」
陽菜の表情が期待にかわる。
「じゃあ、ちょうどお昼休みだから今から行きましょう」
「…とても行きたいけど、今日は行けないの…」
陽菜は美咲のために道をあけたが、美咲は陽菜とは対照的に切なそうな顔をする。
「え…?」
ショックのあまり菜花は言葉を失った。
「他の方たちにランチを誘われてて…」
「そんな…」
陽菜は落胆を隠せない。
せっかく美咲さんとお友達になれて、ランチを誘うまでできたのに…。
「あ、でも、陽菜さんも一緒にいかが?ちょうど食堂で食べましょうって約束してたの」
「今から…?」
陽菜は美咲を他の誰かに取られた気がした。
「今から山野さん達に連絡してみるわ」
そんな陽菜の気持ちを美咲はつゆ知らず、カバンからスマホを取り出した。
「山野さんって、山野希さん?」
「そうなの。陽菜さん、山野さんの事ご存知なのね。山野さん、優しくて、とても良い方ね」
美咲が微笑む。
山野希が良い人ですって?
人の彼氏をばかりを欲しがる、あの山野希が?
「陽菜さんが、山野さんの事をご存知だったら話が盛り上がって、きっとこのランチは楽しいものになるでしょうね」
パンっと美咲が手を叩くと、嬉しそうに希に電話をかける。
そんな姿も優雅だった。
まさか美咲さんが希とも繋がりがあったなんて…。
でもいいわ。
希は苗字で呼ばれてるけど、私は下の名前で呼ばれてるのよ。
美咲さんの中では、希より私の方が上ってことよ。
無意識に陽菜は心の中で希のことを見下した。
「山野さん、是非ご一緒にしたいですって。よかった。賑やかなランチになりますね」
美咲が陽菜の手をとり、食堂に向かう。
陽菜は美咲に握られた掌が、嬉しさで震えているのがわかった。
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