野上陽菜 ⑦

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野上陽菜 ⑦

 その日の晩。  いつもは学が帰る前、先に寝ている陽菜だったが、寝ずに待っているとスマホがなる。 美咲さんだ。 なんだろう…。  陽菜が電話に出るとすぐ、 「美咲さん!今すぐ○○ビルの屋上まで来て!!学さんが!学さんが!!」  切羽詰まった美咲の声。  ただならぬ声に菜花は理由も聞かず、家を飛び出した。 「学!どうしてそんなところに!!」  屋上のフェンスを乗り越えた所に、女性と学が立っている。  暗がりで女性の顔は見えない。 「彼女が飛び降りようとしてるから、それを止めて…」 「警察は連絡した?」 「した。でもまだ着かなくて」  焦っている学は女性の腕をしっかり掴んでいる。 「でも、どうしてフェンス乗り越えてるの?」 「それは…」  学が口籠ると、 「教えてあげる。彼、私と付き合ってたのに、別れるって…。私が一番だって言っておきながら浮気してたなんて…」  女性が嗚咽混じりに叫ぶ。 浮気!? どういう事!? しかも、私の方が浮気相手!? 「違うんだ陽菜!!俺はお前と、やり直したいんだ!」  学は女性の腕を掴みながら必死に陽菜に語りかける。 やり直したい? それって私達もう終わってたの?  何も考えられないというように、陽菜はのろのろと学の側にあるいて行くと、 「!!」  女性の顔がしっかり見えた。 「あんたは二番手よ。美咲さんの友達としても、学の彼女としても…いつまでたってもね」  そういうと、その女は足を宙に浮かせ…。 「希‼︎」  学の手をすり抜け、山野希は下の硬いアスファルトへと落ちていった。  フェンスの外側に座り込み、すすり泣く学をただぼーっと陽菜は見つめ手を差し伸べた。 「陽菜ごめん。こんなことにるなんて…」  学は陽菜の手をフェンス越しに掴もうとしたとき、 「そうね。残念だわ」 「うわーーーーーー!!!!!」  陽菜はとんっと、学の手を押し、落ちていく学を冷ややかな目で見送った。 「陽菜さん、貴方は何も、何も間違ってないわ!!」  そばで見守っていた美咲が、ただただ虚な瞳で美咲を見つめ立ち尽くす陽菜に抱きつく。 「二人は自分から飛び降りた…。私はそれしか見てないわ!」  美咲は陽菜に語りかける。 「私はずっと陽菜さんの味方よ…」  美咲は涙が枯れるまで泣きじゃくる陽菜を、いつまでも抱きしめていた。  しかし美咲は落ちた二人を見下ろし、そして陽菜の頭を優しく撫でながら満足げに微笑んだ。
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