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享年22歳、私は死んでしまった。
死因は心臓麻痺。もともと持病を持っていた私だったけど、普段の生活に大きな支障はなかったためいくらか油断があったのかもしれない。
ある日の午後の帰り道、電車の中で運転席のすぐ後ろに立っていたとき、突然の発作に襲われた。
電車が停車し車掌や他の乗客に取り囲まれる中、私は意識が遠のいていくのを感じていた。
どれぐらいの時間が経ったのか、あるいはほとんど時間が経過していないのか。
私は電車の中で人だかりを遠巻きに見る位置に立っていた。
発作の苦しさなどはどこかへ消えてしまっていた。
人だかりの隙間を覗き込むと、そこには……私が倒れていた。
「やっぱり……私は死んじゃったんだ」
死んでしまった割には我ながら平静を保っているな、と思う。
まあ死んでしまった以上、今生は全て終わりなのだから、慌てたり泣き叫んだりしても意味はないのだし、心残りがないわけではないけれども、それを果たす方法もないわけだから悔しがっても仕方ないし。
それはそれとして、これからどうすればいいんだろう?
今の私はどうも霊とかそういったたぐいのものらしいけれど、そのうち天国とか地獄とかに行くのかな?
そんな事を考えていると、背後から私の肩を誰かが叩いた。
振り返るとそこにいたのは……真っ黒なローブをかぶり、そこから骨の顔と手足が覗いた姿をした、随分レトロな死神だった。
いや、まだ本人はそうは名乗っていないのだけれど、でっかい鎌も持っているし、まず間違いはないと思う。
「もしかして……死神さんですか?」
「あ、はい。そうです、死神です」
やっぱり死神だった。
「私を迎えに来た?」
「まあそうですね」
「そうですか……行き先は天国ですか?地獄ですか?」
「あー、それなんですが……実はまだ決まっていなくて……」
え?
「どういうことですか?」
「ほんとはここで死ぬのはあなたではなかったので、あなたの今後はまだ決まっていないんですよ。手続きの都合上、もうしばらくお待ちいただくことになります」
「ちょっとまって!」
この死神、今少し聞き捨てならない事を言った気がする。
「私が死ぬ予定じゃなかった?じゃあ本当は誰が死ぬはずだったんですか?」
「それはですねぇ……ほら、そこに。あなたの……いえ、霊体ではなく肉体の方のあなたの傍らに立っておられる、この電車の運転手さん。彼がホントはなくなる予定だったのですが……」
「それがなんで私が死ぬことになったんですか?」
思わず詰め寄るようになってしまった。
「いえ、あの運転手さん、持病を隠して業務をしておられたようなのですがね。それで今日、ここで発作を起こしてなくなるはずだったのですよ」
あの運転手さんが……。
「持病隠していたなんて、最悪ですね、あの人」
「そう、そうなんですよ。で、あの運転手さんがここで亡くなると、当然電車は運転手無しで走行することになりますよね。そうなると……」
なんとなく理解した私はつぶやいた。
「電車の事故で、沢山の人が……」
「そうです、そうなんです。で、そういったことになるならば、あなたお一人だけの犠牲で済ませたほうが良いかと……」
「そんな!だからって!」
言っていることはわかるけれど、ちょっとひどいと思う。
「いえ、運転手さんが亡くなればどのみちあなたは亡くなっていたのですよ。しかもその場合即死ではなく病院のベッドの上で半年間意識不明の重体で」
世の中の不条理とでも言うのか。多くの命よりは一人の犠牲というわけらしい。
でもそういうのって、私の人生すべてを否定されたような気がして少し……いやだいぶ切ない。
……まあそれでも死んでしまったものはしょうがないのかなぁ。
周りを見ると恋人同士、親子連れ、いろいろな人達がいる。
確かにこういう人たちが死ぬよりは、私一人のほうが良かったのかもしれない。
「確かに……犠牲は少ないほうが良いかもしれないですね……」
私はしばらく考えた後、納得することにした。
「ええ、わかっていただけて幸いです。なにしろ電車事故ともなると、犠牲者の数は多くなってしまいますからねぇ。ことと次第によっては残業しないといけないかもしれなくて」
ん?
「ちょっとまって、残業?」
「はい、こうした死後の魂を導くのは死神の仕事ですが、人数が増えれば手続きにも時間がかかります。そうなると家に帰るのも遅くなりますし、何より疲れますから」
「えーと、つまり、死神さんは残業が嫌だから私一人を殺すことにしたと?」
「ええ、偶然にも同じ病気のあなたがすぐ近くにいらっしゃったので、まさにこれ幸いと……」
死神の顔面に私のフライングドロップキックが炸裂した。
生前は持病のせいで激しい運動を楽しむことができなかったが、今ならばどんな大技もかけ放題、決め放題だ。
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