灰紫の雨が降る街

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 しかたなく、また歩き出す。  現れたのは、僕の家だった。小学校、中学校、高校、大学とこの家から通った。就職を機に一人暮らしを始めるまでは。近所の友人と遊び呆けた。ある時は、隣町の外れにある川まで釣りに出かけ、暗くなっても帰ってこないと大騒ぎになった。僕らは時間を忘れて、あたりが暗くなってようやく帰る時間を過ぎていることに気がついた。ぐんぐんと立ち漕ぎの足に力をこめて自転車を走らせたが、あたりはその速度を超えて、闇を濃くしていった。家に着く頃には、友人と二人ぐずぐずと泣きながら漕いだ。暗闇を背にして立つ母の姿が、地獄の門の前に立つ鬼に見えた。だけど、こつりとちっとも痛くないゲンコツのあと、抱きしめられた。少し震えていた。肩に暖かい雫が落ちてきた。 「かあさん、ごめんなさい。心配かけちゃって」  ぽたりと肩に雫が落ちた。 「本当だよ。もう、こんな思いはさせないでね」  今の雫は母の涙だろうか? 僕は雨の中立っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加