灰紫の雨が降る街

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 全て、思い出したよ。  夏が来る前に、エアコンを新しくしよう。そう言って向かった大型の家電店、その帰りのことだった。雑踏を走り抜ける足音と、人々の悲鳴。  僕は家族を庇い、通り魔に刺された。  この桃色とも水色ともつかない灰紫の雨は、僕が大切にしていた人たちが流した涙。  ありがとう。  もう泣かないで、僕は幸せだった。  一番大切なものを守れたんだから。  ここは、死者と残されたものの思いが交錯する場所。  たった一度だけ、死者から思いを届けられる場所。  駅から降り立った客に女が言った。 「雨、やみませんね」
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