「犬だから」

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 犬と寝る気なんて、毛頭ないが。  いくら諒が愛らしくても愛しくても男女の交接をもちたいとは微塵も思わなかった。彼に対して疼くのは下腹部の臓器ではなくまったく別の部分だ。  諒もまた沙璃を『女』ではなくドミナとして敬愛しているのだと言った。だが、そうは言ってもなんらかの肉体的な接触は嬉しいのだろう。彼はもとから行儀がよく無断で沙璃に触れたりしない。沙璃から与えられるのを待つだけのそれは、特別のご褒美のようなものだ。 「ほら、横になって」 「は、い……」  長い手足を丸めて、シルクのシーツの上に横たわる。 「もうちょっと上、枕のあたり。こっち向いて――」  ベッドを横断するように横にして腹をこちらに向けさせて、やっぱり背を向けろと手で示した。 「あ、の……?」  なにをされるのかまったくわからず、諒は心細げにこちらを振りかえる。 「枕になってよ」  大型犬の腹に頭を載せている写真が幸せそうで羨ましかったのだ。  諒の背中に頭を載せてみた。浮いた背骨は美しいが、固い。  ――やっぱりお腹のほうがやわらかいかしら。  けれども、腹を枕にすれば顔のすぐ横には性器があることになる。それはぞっとした。  何度かごろごろとして、頭を載せる角度を変えてみる。 「やっぱり固いわね」 「……申しわけありません」 「良いのよ、この細い躯が好きだから」  やわらかさはないが湯上がりの良い香りがした。ラベンダーともうひとつ、甘美な花のような香りがある。部屋に焚かれた伽羅の香りとも違う。彼自身の香りかと鼻を寄せれば、彼はくすぐったげに身を捩った。 「石鹸、変えた? なんの香り?」 「……ラベンダーとイランイランです」 「どうして?」 「……女性で好まれる方が多いと聞いて、それから、その、……官能的な香りだと――」 「私を誘うため?」  頭が動いた。頷いたのだろう。 「莫迦」 「……お嫌いですか?」
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