「犬だから」

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 彼が沙璃の愛奴、サブミッシブである証。犬の首輪に似たそれは沙璃の手製のもので上質の革で丁寧に作られていた。縁が首を傷つけないよう、素肌に金属が触れないよう――。  諒は沙璃の前でこうべを垂れた。さらさらの絹糸のような髪が流れ、細いうなじが露になる。騎士が貴婦人に跪くようにも罪人が処刑を待つようにも見えた。彼が緊張して、同時に期待しているのは薄い耳朶のかすかな朱みに見てとれる。白い首に紅の首輪をかけてうなじにかかる髪を払い、後ろでホックを止めた。  顔をあげた諒は夢見るような、少し傷ついたような顔をしていた。 「そんなものをつけて、犬じゃないっていうつもり?」  唇を結んで、小さく首を振った。  ――さっきまで尾を振りそうだったのに、しょんぼりしちゃって。  夕食後、風呂に入っておくよう命じたときの彼は可愛らしかった。はっとして、すぐに嬉しさを表情にはっきりと滲ませ、それを恥じらうように俯いてみせた。それでも唇がやわらかく笑んでいたのを覚えている。  沙璃は広いベッドの上で長い脚を組み換えた。 「脱いで」  いつもどおり、こちらは服を着たまま命じる。いや、沙璃はナイトウェアにさえ着替えていない。骨格のしっかりした躯に似合いの白のシルクシャツにインディゴのデニムパンツ姿。諒に晒すのは白いデコルテと折りあげた袖から覗くしなやかな腕、同じく細く折った裾から覗く引き締まった足首だけだ。  彼はいまだに沙璃のアンダーウェアさえ見たことはない。  諒をじいっと見たまま、うねりのある長い茶の髪をかきあげた。 「沙璃……様、」  輪郭線の淡い、雪のような声が戸惑いに揺れた。 「なぁに? 遊んでほしくないの?」  彼は首を否定に振り、躊躇いがちに寝衣を脱ぎはじめた。上質の絹が高い音を鳴らす。
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