あなたの理想

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「僕は変わろうと思った。君に認められるような人になれば、きっとみんなも僕を普通に扱ってくれるはずだって。だから高校卒業してすぐに、お金を貯めるために働いた。朝昼晩、必死でね。お金を貯めてまず顔を変えた。海外にも行ったんだよ。日本より海外の整形の方が良いって聞いてね」  あの頃はとにかく必死だった。仕事をしながら、高津のことを調べるのはかなり骨が折れることだった。それでも僕は高津の為に必死で努力した。  身分を偽って近づいたのは、先入観をなくす為だ。本当はすぐにでも変わった自分を知って欲しかった。けれど本当に自分は変わることが出来たのか、見極めたくもあったから我慢した。 「高津は二重の人が好きだよね。顔が小さくて男らしい人より、少し中性的な美人が好きみたいだね。僕は一重でエラも張ってて……だから大変だったんだ、変えるのは……でもね、高津の為だったら痛いのも、高いお金を出すのも苦じゃないんだ」 「……お前、正気じゃないだろ……頭おかしい」  高津がやっと口を開くも、出てきた言葉は想像していたものとは違っていて僕は困ってしまった。 「どうしてそんなこと言うの? あっ、そっか。急にそんな話したから、びっくりしたんだね」  卒業アルバムを棚に戻すと、青ざめて俯く高津の隣に腰を下ろす。体を震わせて僕から離れようとする高津に、僕は優しく微笑みかける。 「驚かせてごめん。でもね、これから先は何も変わらないよ。だって高津は、今の僕を本気で愛してくれてる。理想の人だって言ってくれた。頑張った甲斐があったよ。高津のお陰で僕は変わることができたんだ。だから過去なんて忘れようよ。でもね、そろそろ名前は本名で呼んで欲しいなぁ」  高津はガタガタと震え、今にもソファから落ちそうだった。そんな風に怯える高津も愛おしく思える。今の高津は動揺しているだけで、いずれは僕を超えるような理想の相手はいないという事に気づくはずだ。 「ねぇ、よく見てよ。僕はちゃんと理想の人でしょ?」                                                了
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