あなたの理想

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「なんでって、同じクラスだったから」 「何言ってんだ……俺たちは社会人になってから知り合ったじゃないか」  高津の顔が見る見るうちに青ざめていく。缶ビールを握っている手が震えていて、「落としそうだよ」と僕が笑うと高津がハッとした顔でテーブルに置いた。 「高校二年の時かな。高津が僕に教えてくれたんだ。顔が気持ち悪いって」  高津に見せつけるように、アルバムに載ったキモい顔を指差す。八崎 勝海。それが僕の本当の名前だ。 高津は愕然とした表情で、言葉を失っている。すぐには信じられないのも無理はない。僕は偽名を使って、高津に接触したのだから。 「それに辛気くさいし、役立たずだって、高津は僕に言ってたよね。それで僕は気づいたんだ。僕がみんなから無視されるのは、それがいけないからだって」  僕は分からなかったのだ。周囲の人間が何故、自分を遠巻きにするのか。親ですら、どこか腫れ物に扱うような態度を取るのか。分からなかったから、直しようが無かった。 「誰一人教えてくれなかったし、僕の存在をいない物みたいに扱ってきた。でも、高津だけは違う。僕の何が悪いのか、ちゃんと教えてくれたんだ。高津だけが、僕の悪いところを指摘して、直させようとしてくれた」  高津は僕をちゃんと見て、蹴ったり殴ったりしながら教えてくれていた。  デブで顔がキモいから目障り。金もろくにもってない。買ってこいと言ったものと違うっと言っては、僕を正そうと躾けてくれた。
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