完璧で曖昧な現実の中で

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 突然、電話の呼び出し音が鳴り響いて、思いっきり渋面になった父さんが出た。俺はフライパンから手が離せない。  着けっぱなしのテレビは血液型占いを始めていて、軽快な音楽と共にO型の四位とAB型の二位を告げる。コマーシャルを挟んだ後で、フラッシュと共に大臣は就任前から見事に変わった意見を繰り返し、お偉い大学教授はさも当然とコメントする。  電話を置いた父さんは仏頂面のまま背広をつかむ。コーナー変わってにぎやかに流れ始めた柔道家の離婚騒動に餃子みたいな耳の先まで不機嫌面して、破きそうな勢いで袖へと腕を押し込んだ。 「どいつもこいつも愛だの恋だの、甘っちょろい嘘に浮かれやがって」  半分ほどに減った茶碗と味噌汁の椀を一瞥し、目玉焼きを持ってきた俺を見ることもなくかばんをその手に取り上げた。 「急用が出来た。行って来る」  はっきりした眉を思いっきり寄せた様子はまるで仁王像のよう。ぱんぱんなスーツからはみ出た首も手の甲も、材木のように焼けていた。  太ったな。いや太ったってよりは筋肉か? 父さんが食べなかった熱々の目玉焼きを頬張りながら俺は思う。事務職って大変なんだな。  CDの売り上げランキングでは男性アイドルグループの新曲が安定の一位を勝ち取った。天気コーナーはかわいいおねーさんが天気図を流しながら、降水確率を予報する。  珍しく落ち着きなく表を裏を走り回っていたオトが、首筋の大きな傷を朝の光に浮かばせながら、くっきりした眉の頭を寄せて俺と時計を見比べた。 「やべ」  番組が変わる。挿入歌が流れ出す。  食器を洗って水切り台の上に並べ。俺はかばんを引っつかむ。
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