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父との直接の縁は薄かったけれど、父の遺したものは不思議なことにみな、
今の私を形作っている。
文章を書くことを楽しいと思わせてくれた、原稿用紙。
図面を描く道に進むことは必然だったとさえ思わせられた、製図用具。
原稿用紙はとっくに使い尽くしたが、確実に私の文章力の源となっている。
それがエブリスタに投稿する道を拓き、商業書籍化という稀有な幸運を、私にもたらしてくれた。
製図用具は今でも私の仕事の相棒である。
父が入手してから少なくとも60年は経っているはずだが、まだまだ現役で頑張ってくれている。
容姿は母に激似の私であるが、
その他は限りなく父を受け継いだのかもしれない。
内包する感性も。
表現する手法も。
母の日が過ぎ、父の日が近づくと、ふとそんなことが頭をよぎる。
何の記憶も、私には残さなかった父なのに、
父に似ているらしい欠片を見つけては、
どこかで嬉しいと思い、大切にしたいと思う、
そういう自分がいる。
Fin.
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