オン・ザ・ロード

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ある時、ママの店で、京香が苦しげな面持ちで重たい口を開いた。自分が不倫しているということを語り始めたのだ。この1年妻子ある人との付き合いを続けてきたんだと、思ってもみない内容だった。 なぜって、その頃から問題を起こすのは、この私であり、おりこうさんなのが京香であった。 京香の話しを聞きながら、お店の中が気づまりの雰囲気が漂うところで、機転をきかせてくれたのは彼女の方だった。 「さあ、私はどうしたらいいでしょうか?」と京香。 知美が私を見た。 みんなのまとめやくの珠江が、京香の顔をジッと見て「そりゃあ、別れるべきでしょう」珠江と私は特に仲がよかったわけではないけれど、彼女は聞くに値する意見の持ち主で、常に正統派であったから、一緒に働いてくうち、彼女への尊敬の念が芽生えたのは事実だった。 「でも京香その人のことが好きなんでしょう?」迷惑はかけるけれど、調子の良さでのりきる知美が言った。 「その人のどこがいいの?」と私は横目で京香を見て聞いた。「不倫するほど魅力があるんだ?」 「初恋の人に似てるの」と京香が言った。 「その気持ちわかる」とママが言った。「わかるわ~、今でも私、初恋の人好きだもの。やっぱり、なんだかんだ言って一番最初に好きになった人がいいのよね」 彼に対する思いを京香が話すときの目には、張りつめた熱ぽさがあった。「彼がね、こんどイギリスに旅行に行こうっていうの。イギリスに留学してたのよ。彼ちゃんとした学校は卒業してるし、自分の会社を持ってるの」京香が話すことと言ったら不倫している相手のことばっかり。そのため、珠江と言い争う場面もあり「いい加減にしなよ京香!」ちょっと店の空気がざわめいて、京香は手で髪をすきながら、タバコを取り出して火をつけた。私と知美の顔には困り果てたような表情が浮かんでいた。 ママは、若いっていいわね。と言いながらお酒を作り、その時カラオケで、肉のたるんだお尻を振り、森高千里の『私がオバさんになっても』を歌っていた。
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