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何か月も前のことだ。用事があって、久しぶりに車で都心に出た。そしてその途中にたまたま付近を通りかかった。
交差点で止まると、ママのお店は、道路が拡張され、今では道端のひろい一本の道になっていた。昔は交通量の多い十字路で、ひどく混雑していたけど、拡張の特性を受けて歩道は長くまっすぐで、あの頃の距離感とは違っていた。かけがえのないものが去ったあとの余韻が残っている。そんな気がした。
まわりをぼんやり眺めていると、ふいにいま持つものは、はるか遠くに見え、消えうせたものが、いきいきともどってきた。
あれから四人は、転職したり、結婚したり、海外に飛び出したり、一人一人がそれぞれの方向に向かって行き、お互いに連絡を取り合わなくなって、もう何年も経つ。まったく、月日が経つのは早い。しかし、私たちには共通の思い出があり、それがいつか思い出になるのことも知っていた。
信号が変わるなり後ろの車がクラクションを鳴らすと、娘が声をあげた。「ママ信号が変わったよ」私の顔を見ている。
タイムスリップでもしたような感覚に襲われていた私は、はっと我に返った。前を見て、アクセルを踏み、ハンドルを握りなおした。
「ねえ、ママ」
「ん?」
「化粧品買ってくれる?」
「え、まだ早いよ」
言いたいのはそれだけではなさそうだ。
「だって持ってないの私だけなんだよ」
彼女はため息をついた。
「薫だって持ってんだから」
「んー、そうか、じゃあこれが終わったら、買いに行こうか?」
「ホントに?」
「うん」
時計を見て時間を確かめて、バックミラーを見ると、私たちの後ろ姿をあの頃の彼らが見送っていた。道は再び彼らに出会うチャンスのところまで続いているはずだ。私は目の前に広がる風景を見つめ、自分にそう言い聞かせていた。
なぜなら私が行く道は最後はぜんぶ彼らにつながってるからだ。いや、厳密に言えば、彼らが道そのものだからだとも言える。
娘がにやにやしながら私を見ていた。
「ねえ、ママ」
「ん?」
「どう?最近、キレイになった?」
「誰?私?」
「ママじゃないよ、ママもとから綺麗じゃない。私よ私、綺麗になった?」娘がそう言って微笑んだから、私は思わず笑ってしまった。
おわり
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