オン・ザ・ロード

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エレベーターに乗るや鏡を見て「どう? 最近、綺麗になった?」 「え、私?」 「あんたじゃないわよ! あんた、もとから綺麗じゃないのよ。私よ私、綺麗になった?」鏡にうつる自分と私の顔を見ながら言った。 「パパ?」 「パパって何よ! やめてよ、パパだなんてさ」 「ごめん」と私は手を叩いて笑った。「一瞬パパといるみたいに思えて」 「ヤダぁ」短く刈り上げた黒い髪で「あんたんとこのパパってこんな感じなの?」と、ママはエレベーターのドアのほうに向きなおりそう言った。 「パパって、実家の?」もちろん、そうだろうけど、私はとっさにそう返した。 「当たり前でしょう! それ以外どこにいるのよ? もう最近の若い女はこれだから怖いわ。あんた何人パパがいるの?」 そのままエレベーターが四階に到着するまで私は笑っていた。 そのころ、部屋には緊張感がみなぎっていた。 廊下を歩いて来るヒールのコツコツという足音が聞こえてきて、みんなはきっと耳を澄まし、ドアの近くに集まり、鍵を回す音がしたら、笑いそうになるのをじっとこらえ、ドアが開くのを待っていた。 そして、私がドアを開けると、「サプラーイズ!」   ママはわずかに後ろに身じろぎした。 「ママお誕生日おめでとう!」 「やだ、何?」ママは薄気味の悪い笑顔で「どうしたの? 何のまね?え?なに?」と私の両手をしっかりとつかまえて声を落としながら「うそでしょう? 本当に?」と感激していた。 私は顔いっぱいに笑みを広げていた。 黒の短いワンピースを着た珠江が、ママに花束を渡し、中へ案内する。 「さあ、ママ、上がって」 「え、やだ、何によあなたたち」 部屋にいるものたちは、みんな私の同僚の女の子たちだ。仕事の帰りにふらっと立ち寄った店がママの店だった。そしてその日、その週、その月を思い返して、ママに愚痴を聞いてもらうといった感じで足しげくママのお店に通っていたっというわけ。 「私、今まで生きてきてこんなことされたの始めてよ。ありがとー」 こんな光景を見ると、みんなほのぼのとした気分にひたってまるで自分のことのように幸せだったはず。 「ママ。それで何歳になったの?」 「嫌だ、それ聞く?」 京香が言う。「50歳?」 珠江は笑う。「やだ、どう見ても50は超えてるでしょう、こんなオジサンなんだから」 ママはその言葉をさえぎるように「とうとう41になっちゃった」寂しそうに言った。 誰もそれが本当のママの年だと思っていないから、笑うのを堪えるので必死だった。 「とにかく、ママそのようすじゃ妊娠しないから安心ね」 知美が突っ込みをいれると「ヤダ、知美ったら! 失礼しちゃうわ」ママはとたんに背後から知美に抱きついて、そして知美が叫び声を上げる中、「お前のこと妊娠させてやる!」男の声で腰を振りながらそう言ったあと、うつむいて疲れきったようにため息をついた。 「ブラピの子供が欲しい」
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