追う

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追う

 花の女子高生最後の年の幕開けがこんななんて……サバンナでインパラを追うチーターは何を考えているのだろうか。例えば知能の高い海獣ともなると、必要以上に獲物を痛めつけるような、いわゆる「遊び」のようなことをすると聞いたことがある。頼むから、チーターにそんなサディスティックが備わっていませんように。私は無理やり回転させた頭の隙間で念じる。しかしまあ、チーターはスピードを求めるゆえに体を軽くする過程で脳みそもスカスカに軽くしたのかもしれない。確かにチーターの頭部は外から見るに小さい。ちらりと私は後ろを振り返る。追う者の心理を考察しているのには切実な理由があった。私を追っている男はチーターのようにスタイリッシュではなく醜く、頭、というか顔は大きい。しかし脳みそはスカスカなのかもしれない。男はセーターにチノパンという妙にずれた格好で、時々ハァーフゥーと大きく息を吐きながら猛追してくる。速い…… これでも私は中高続けて陸上部に所属し、去年は県大会にも出場してそこそこの成績を修めたのだが。決して運動ができるタイプには見えない男に追い付かれそうになった私は観念し、覚悟を決め、逃げるのを諦めた。そして速度を落としながらカバンを漁り、今朝飲んだジュースの空き瓶を取り出した。男の気配をすぐ背後に感じる。私は振り向きざまに男の顎めがけて瓶でアッパーを食らわす。追う者は反撃の想定があまい。男は振ったデカビタのように口から泡を吹き卒倒した。砲丸投げで鳴らした私の腕力は伊達ではない。
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