一番大好きだった人

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一番大好きだった人

父は、たった、一晩で亡くなっていた。 隣の部屋に居たのに、気づかなかった。 私は24才だった。 その夜は…、 私は、 女友達と、長電話をしていた。 薄い間仕切壁。 きっと、父には、私の聲は聴こえていたはず、 でも、私には、何も聴こえなかった。 朝、父が部屋から出てこないので、 私が起こしに往くと、 布団の上で、うつ伏せの動かない父が居た。 視ただけで分かった。もう、堅くなっていた。 救急車を呼んだけど、 もう、亡くなっている場合は、 警察官が必要だと云われた。 父が動かないのは、 そうなのかもしれないけれど、 私には、 父が動かないのが不思議だった。 たった、9時間前、 父は…、私の目の前で、 晩御飯も、普段通りに食べていたのに、 寝室にも普段と変わりなく入って往ったのに、 こんなに簡単に、死ぬわけがない。 そう、勝手に、私は、自分をなぐさめていた。 「頭の太い血管が切れていたから、きっと、         一瞬だったかもしれない…」 警察官は、ただ、立ち竦む私に云った。 それは、最期の時に「苦しまなかった」と、 何も気づいてあげれなかった、 悔やんでいる、私を、 なぐさめているの? 私…、 何も聴こえなかった。 スマホから聴こえてくるものだけに、 集中していたから。 最期に…、 父は、なにかを云ったのかもしれない。 なにか、物音を出したのかもしれないのに。 私…、 クダラナイ、 長電話をするんじゃなかった。 この気持ちは、きっと、 何年経っても、かわらない。 一番、大好きだった父なのに、 一番、大事な時に、 私は、クダラナイ、話しをしていた。 話疲れて、そのまま、寝てしまった。 私には、隣の部屋から、 何も聴こえなかったけど、 隣の部屋の…、 父には私の聲が聴こえていたはず。 きっと、父の、最期の、最後のとき、まで…、 「お父さん!」
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