親父の背中

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時は12年前に遡る。 ある日突然、父ちゃんの住むこのアパートに、妹のちづる、私の母親が転がり込んできたのだそうだ。 すでに、その時、私は母のお腹の中におり、生活に困っての居候だったらしい。父親が誰だかわからないのだと言う。そんな妹に呆れながらも、同居生活が始まった。そのうち、私が生まれ、ご近所から見れば、若夫婦のところに赤ちゃんが産まれたみたいに思われていたらしく、面倒なので、奥さんと言われても否定しなかったらしい。  ところが、母はまたもや、新しい男ができて、私を置いてその男の元に行ってしまったという。母親に捨てられたのだ。不憫に思ったのか、ずっと私に父ちゃんと呼ばせて、私を育ててくれた。そして現在に至る。 「まったく、あのアホ娘と来たら・・・」 今度はおじいさんが私を憐憫の目で見て、ため息を吐いた。 その時、突然、玄関のドアがカギで開けられ、ふわっと今まで嗅いだことのないような甘ったるい匂いが漂ってきた。 「ただいま~」 そこには、年の割には若作りをした派手な様子の女性が立っていた。 そして、隣には、おおよそ釣り合わないような若いチャラチャラした男が立っていた。 「ちづる!」 父ちゃんとおじいさんが同時に声を上げた。 この若作りの香水臭い女が、お母ちゃん?
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