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「なんだよ、可愛くねーの!」
金村さんは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
それからまた、懲りずにズイズイと近づいてくる。
「な、なん……」
私をエレベーターの角に追い込むと、そのゴツくて骨っぽい指で私の目元を指差した。
指先と顔の距離、およそ三センチ。
私が先端恐怖症だったらどうするんですか。
「とりあえず。せめてそのクマだけはカバーしてから来いよな。化粧品会社勤めのくせに美容に無頓着とか、ウチの開発部と企画部が泣くぜ」
「そっ、そんなの関係ないじゃないですか! 仕事は仕事なんです」
「コンシーラーのサンプルが販促室にあるから、一つ持ってけよ。どうせ持ってねぇだろ、麗子チャンは」
「っ、名前で呼ばないでくださいってば……!」
「じゃ、お先~」
エレベーターが開き、後ろ手を振った金村さんが、すたすたと先に降りていく。
失敗した。マスクしてくればよかった。
至近距離でがっつり顔を見られてしまった……。
確かに、連日の不摂生が祟って、肌のコンディションは最悪だ。クマも……うん、酷い。
あぁっもう、無駄に目敏い金村さんが恨めしい。
いや、それ以前に、女子に向かってヒデェ顔とか、普通言うか!?
あなたこそ、販売促進部のエースのくせにその発言はどうかと思います!
いつかセクハラで訴えてやる。べーっだ!!
あり得ない。デリカシーない。
だけど私も私で、図星だから言い返せない。
可愛いげがないのも、嫌というほどわかってる。
……とりわけ、金村さんの前では。
「それに……本当は、ドラマじゃないもん」
何かにつけ私の睡眠状況をチェックしてくる金村さんには、無難に“海外ドラマにハマってるんです”、ってことになってる。
だけど、本当は――――――
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