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「――涼宮ぁ。この間俺が言ったこと、聞いてたか?」
休憩スペースの自販機前で、うっかり鉢合わせしたが最後。
「夜更かしすんな! 寝ろ! てか、ちゃんとした飯食ってんのか? 野菜不足って顔面に書いてあるぞ」
「ギクッ」
あぁ。今日も今日とて、金村さんが煩い。
「カップ焼きそばの中のキャベツは、野菜とカウント……」
「されるわきゃねーだろっ!」
金村さんがハァ~と呆れたように大袈裟なため息を吐く。
同じ課の他の女の子たちにはそうでもないのに、どうして私にだけこんなに冷たいの。
私、何か嫌われるようなことしましたっけ?
そりゃあね、ちょっと態度も背もデカくて、可愛いげが無いかもしれませんけど!
さすがにムッとした私は、資料室から抱えてきた分厚いファイルの角を、金村さんの引き締まった腹筋目掛けて押し当ててやった。
「ぐぇっ」
「あ、すみません手が滑って」
「嘘つけ! 絶対わざとだろ!」
「……確かに、ちょっと寝不足なんですよね」
「あぁ?」
「実は昨日も、なかなか寝かせてくれなくて…………廉斗が」
「は、レント?」
廉斗さま、貴方のこと呼び捨てにしてごめんなさい。
でも私、嘘はついてない。多分。
「レントって誰だよ」
「(心の)恋人……的な」
「的な~!? 遊ばれてんじゃねぇの、お前」
「失礼なっ! 廉斗はそんな人じゃありません!」
私がカチンときて身を乗り出すと、金村さんは不機嫌そうに小さく舌打ちをした。
手にしていた缶コーヒーを一気に飲み干して、それからじろりと私を見下ろす。
切れ長の目の奥が何か言いたげに揺れて、私は一瞬怯んでしまった。
「あ、あの……」
「あー……わかった。全部妄想だろ! おかしいと思ったんだ、涼宮に恋人なんて」
「なっ……!」
「大体なぁ、自分の見てくれも気にしねぇお前に惚れる男がそうそう居てたまるかよ」
……おっしゃる通り。
反論の余地、なし。
金村さんの言うことは、ごもっとも。
だけどなんでだろう……。
若干……というか、かなりイタイ。――――胸が。
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