出会い1 オウゴンマサキの男

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 まったく引く気のない男に顔をしかめ、エリオットはドアノブから離した手を握りこむ。 「一般的でない親を持つと苦労するな」 「お気遣い感謝いたします」  お気遣ってねーよ。  名前に関してはさんざんからかわれて来たのだろう。開いたドアからふたたび現れた男の顔が、くっと口の端を上げて笑みを作る。業務用の、見事なまでの愛想笑い。  上等なのは服だけではなかった。  わずかに斜めを向いた顔は嫌味なくらい高い鼻が輪郭の頂点を極め、髪を上げてさらされた広い額は知性的だ。それぞれ完ぺきな造形のパーツが、しかるべき場所に収まっている。世の芸術家どもがジャンルを問わずモデルに請いそうな外装だ。オークション形式にしたらさぞ高値が付くに違いない。さすが、小国と言えど王宮。使用人まで一級品である。  ダビデ像のモデルですと言われても頷いてしまいそうな男は、分度器でも内蔵しているのかきっちり三十度のお辞儀をし、タイル張りの玄関に足を踏み入れた。 「ご明察の通り、少々障りのある名前でございます。アレク、もしくは単にバッシュとお呼びください」  やけに余裕ぶった態度。ただのメッセンジャーボーイの名前を呼ぶ必要なんて、どこにあるのか。  舌打ちして差し出された白手袋から目をそらし、少しでも広いリビングへと逃げ込む。「どうぞおあがりください」と招き入れたわけでもないのに、侍従はリビングの戸口まで遠慮なく侵入してきた。
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