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最後に会ったのはいつだったか。ずいぶん長い間テレビ以外で顔を見ていないが、こんな紋章入りでぎりぎり公文書に当たるか否かと言う形式の書簡を送り付けるような、仰々しいやり取りをする間柄ではなかったはず。
もしかして、自分が知らないうちに、そう言う間柄になってしまったのだろうか。
不安にかられながら開封して、折り目すらも美しい上質紙の便せんを広げる。
滲みやかすれのないインクの跡が、定型のあいさつ、エリオットの近況をうかがう文言をつづり、紙面の中ほどでようやく本題に入った。
「――選帝侯?」
「はい。ご承知の通り、王太子殿下におかれましては、おととしの春議会にてミシェル・タウンゼントさまとの婚姻が承認され、七月にご成婚の儀を予定しております。つきましては、ヘインズ公爵に選帝侯としてご出席をと」
「ミシェル……ミリーか」
呆然とつぶやいたエリオットに、バッシュはわずかに眉を動かした。上げたのか寄せたのか、それすら定かじゃない程度の動きだが、とにかく怪訝そうだ。
「失礼ですが、ヘインズ公爵は殿下のご結婚についてご存じでは?」
「いや、知ってる。けど……」
一応、住んでいる土地の王太子のことだ。国を挙げての慶事はエリオットも把握している。しかし意図してそれ以上の情報を仕入れてこなかったから、お相手がどこのだれで、式がいつかなんてことはすっかり忘れていた。
この招待状は、その薄情さへの糾弾だろうか。
整然とならんだ単語を、エリオットは頭から拾いなおす。
「『来る成婚の儀に、わたしたち夫婦と国の未来に祝福を賜りたく、選帝侯としてご招待申し上げる』」
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