フラット3-3 フラッシュバック(※)

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フラット3-3 フラッシュバック(※)

 エリオットが配置を決めて花壇に置いた苗を、バッシュがポットから出して植え付けていく。  花壇の端まで苗を並べ終わったエリオットは、ぐっと腰を伸ばした。端から四列目に取り掛かったバッシュの姿を眺めて、口元がむずむずしてしまう。  ジャケットとベストを脱いで白手袋を軍手に変え、足元はゴム長靴と言う園芸スタイル。極めつけに麦わら帽子だ。軍手と長靴は実用性を重視して何も言わずに受け取ったバッシュだったが、調子に乗ってエリオットが差し出した麦わら帽子にはぎゅっと眉を寄せていた。  結局、整えた髪を潰して帽子をかぶったのだが、これが絶望的に似合わなくて派手に笑ってしまった。いい男は何をしても似合うと言うのはウソのようだ。  狙った以上に自分で受けるエリオットに開き直ったのか、バッシュはそのまま移植ゴテを手に苗を植える穴を掘り始めた。  さすがなのは、園芸になど縁がなさそうなのに、一度手順を教えたらあとは迷うことなく作業を進めていくことだ。言われなくても、空になったポットを重ねて回収までしている。  いい男にも似合わないものはあるが、できる男は何でもこなすらしい。 「腹立つわー……」  ここで後れを取っては、バッシュが言うところの「ガーデナー」歴十年の名折れだ。エリオットも花壇の前にしゃがみ込む。花壇の両端から植え初めて、真ん中あたりで合流できればいいくらいだろう。  花壇の王の名は伊達じゃないんだよ!  水を含ませて柔らかくなった土を掘り、ポットの底の穴から指を入れて苗を外し、植え付けて土をかぶせる。スリーステップの単純作業。水はすべて終わってからまとめてまくつもりで、エリオットはしゃがんだ姿勢のまま、横にずれながら自分の移植ゴテを振るう。
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